心理療法に臨むカウンセラーは、総合的なアプローチで問題解決を目指します。
まず、クライエントの状況把握と治療構造の設定をします。心理教育的アプローチやストレス対処法を活用しながら、適切な理論的背景にもとづいて治療をすすめるのがよいでしょう。
カウンセリングを効果的に進めるための鍵となるのは、クライエントとの関係です。今回は、心理療法でカウンセリングを効果的にすすめるポイントをまとめてみました。
カウンセラーの役割とは
カウンセラーがクライエントの問題にアプローチする際には、以下の3つの要因を考慮する必要があります。
- 社会的な適応上の悩み
- 幼児期から身についた神経症的な悩み
- 生理的変化による病理から生ずる悩み
これらの要因は複雑に絡み合い、臨床で訴えられる悩みのメカニズムを構成しています。心理カウンセラーの役割とは、これら3つの側面を専門的に検討し、優先的に解決すべき問題に焦点を絞るアプローチが大切です。
例えば、病理的な問題には心理教育的アプローチが適しており、現在の適応上の問題には環境の改善やストレスへの対処法が有効です。
また、生きかたや神経症的構造を扱う総合的なアプローチが求められますが、適切な枠組みや理論的な背景が必要になるでしょう。
このように、カウンセラーは多角的な視点でクライエントの悩みを分析し、最適なアプローチを選択すると、より効果的なカウンセリングを提供できます。
カウンセリング治療のスタートは「見立て」
「見立て」とは、クライエントの現在の状況や問題点、病理の有無などを把握する段階です。見立てには一般的なものと病理に特化したものがあり、それぞれ情報の取り方や枠組みが異なります。
この段階では、治療構造を設定します。治療環境や治療方法の設定であり、カウンセラーの態度やスタンスがとても大切です。
クライエントとの関係安定が治療促進のポイントになります。真摯な態度こそ、心理療法の必要条件であり、来談者中心療法的アプローチと組み合わせると効果的な治療が可能です。
カウンセラーの仕事の基本:3ステップアプローチ
- 1st-step: 病理へのアプローチ
- 2nd-step: 問題解決的アプローチ
- 3rd-step: 人生全体を扱うアプローチ
【1st-step】病理へのアプローチ
1st-stepでは、カウンセラーはクライエントに対して病理に関する教育的アプローチをします。
この段階での目的は、クライエントが自身の病理や症状の理解を深め、適切に対処する方法を実践していきしましょう。
1. 心理教育的アプローチ
- 目的: クライエントへの専門知識の提供
- 内容:
- 診断と病理の情報提供
- 各症状への対応方法
- 生活のしかたのアドバイス
実践方法
- 専門知識の提供:
- クライエントに対して、うつ病など心の病の病理や症状の性質を詳しく説明します。
- クライエントが病状を理解しやすいように、専門用語はわかりやすい言葉に置き換えるよう努めましょう。
- 相互的なやり取り:
- クライエントとの対話を通じて、教育的アプローチを進めます。
- クライエントが理解しやすいように具体例を挙げたり、質問に答えたりしながら、理解を深めます。
- 自己モニタリングの奨励:
- クライエントが自身の症状をモニタリングし、自分で対処できるようにサポートします。
- 自己モニタリングの方法を指導し、クライエントが日常生活で実践できるように配慮します。
注意点
- 依存を避ける:
- クライエントの要望にすみやかに応えるのは重要ですが、安易な支援介入は依存を助長し、自立を阻害する可能性があります。
- クライエントが自立できるように、適度なサポートと自立を促す姿勢を保ちましょう。
1st-stepの病理へのアプローチは、クライエントが自身の病理や症状を理解し、自立して対処する力を身につけるのを目的としています。
教育的アプローチを通じて、クライエントの理解と納得をえるのが重要です。クライエントとの相互的なやり取りを大切にしながら、慎重に進めていきましょう。
【2nd-step】問題解決的アプローチ
2nd-stepの問題解決的アプローチでは、クライエントの現在の状態と問題を明確にし、解決に導くのが目的です。
カウンセラーはコーチ的な態度を取りながら、ストレスへの対応や問題解決を支援します。ただし、特定のクライエント(境界性パーソナリティ障害、PTSDなど)には、病態に応じた控えめな介入が適切です。
1. 問題を明確化して解決をサポートする
主な介入方法:
- エピソード的な聞き取り: クライエントからの話を具体的なエピソードとして聞き取ります。
- コミュニケーション能力の向上: コミュニケーションが苦手なクライエントには、急がせず、慎重に対応しながら面接を進めます。
ポイント
- 問題点を明確にする枠組み: クライエントから引き出した情報をもとに、背後にある要因や認知の歪みを明らかにします。
2. なにが問題なのか
クライエントからの情報をもとに、問題の本質を明確にします。
例えば、借金や過酷な状況、人間関係の問題などが一般的なテーマとして挙げられるでしょう。また、クライエント自身が気付いていない問題の把握も重要です。
3. 本人の要因を明確化する
認知の歪みやストレス源など、クライエントの内面的要因を明らかにし、その影響を理解します。
過去の経験や対応能力、自己認識の特徴などを考慮し、クライエントの認知や対応のパターンを把握しましょう。
4. カウンセラーの自覚も大切
カウンセラー自身がどのようなアプローチを取るか、また介入をどの程度限定するかの自覚が大切です。
対話を通じて問題点を徐々に絞り込み、意図やアプローチの方向性を明確にします。
5. 「勇気づけ」でひと押し
共感や勇気づけは、クライエントが解決の方向性を見出してもチャレンジがむずかしい場合に有効です。
カウンセラーは適切なタイミングと慎重さをもってクライエントにチャレンジを促し、主体性を尊重しつつ成長を促します。
6. 物語を明確にする
2nd-stepの介入は、「物語」を明確にするための重要なプロセスです。
方法:
- 質問を通じてエピソードを具体化: 限定的な質問と膨らませる質問を使い分け、クライエントのエピソードを具体化します。
- 問題の焦点化: 聞き取った情報を要約し、問題を焦点化します。カウンセラーの仮説を伝え、必要に応じて視野を広げてみましょう。
- 他の視点や対応方法を探る: 認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などの手法を活用し、問題解決や思い込みの修正を図ります。
効果:
- クライエントの気持ちや感情への共感的な態度により、信頼感が増し、より深い対話が可能になります。
- 問題を整理し、クライエントが自らの生きかたにむき合う準備が整えば、3rd-stepへの移行が可能となります。
2nd-stepでは問題の本質を明確にし、クライエントの内面的な要因を理解しながら、解決に向けたサポートをします。
問題解決の過程でクライエントのコミュニケーション能力を向上させ、共感と勇気づけを通じて、クライエントの主体性を尊重しつつ成長を促してみましょう。
【3rd-step】人生全体を扱うアプローチ
3rd-stepでは、クライエントの生活全体に関与し、生きかたや自己の洞察に焦点を当てます。この段階の治療目標は、クライエントの生きかたや自己のありかたの重視です。
クライエントの体験や関係性を通じて成長を促し、内面の欠損部分を明確にし、育むアプローチを繰り返します。セラピストはクライエントのペースを尊重し、積極的な介入よりも共感的な姿勢を示しましょう。
1. 沈黙を活用する
3rd-stepで重要なのは、クライエントの沈黙を尊重し、適切な沈黙を保つ意識です。沈黙は心理療法では有益であり、クライエントが語らなくても受容される時間を意味します。
カウンセラーは適切な判断のもと、共感的な傾聴を心がけましょう。悩みの構造やネガティブなイメージを明確にし、「生きられなかった」部分を探る段階です。
2. 無意識レベルの問題を探る
無意識の問題にアプローチするため、以下の方法が用いられます。
- 質問: クライエントの葛藤や思い込みを探るための質問をします。
- 明確化: クライエントの思考や感情を明確にします。
- 直面化: クライエントの防衛や抵抗、転移を指摘し、これらがカウンセラーとの関係や行動にどのように現れるかを示します。
- 解釈: クライエントの気づきを促すための解釈をします。
カウンセラーとクライエント関係の直面化は、防衛や抵抗、転移などの潜在的なパターンを明らかにし、関係を深めるのに役立つでしょう。
ただし、自己感の脆弱なクライエントには不安定さを増す場合もあり、慎重さが求められます。
3. 生き直すための変化をもたらす技法
「生きてこられなかった」側面や成長不全に対しては、以下のアプローチが有効です。
- 共感と響き合い: クライエントが投げかけてくるものに共感し、応答します。
- 自己心理学のミラーリング: クライエントの体験に共感して成長のプロセスを促進します。
- セラピストの自己開示: クライエントとの共有体験を通じて信頼関係を築きます。
クライエントが変化を試みる段階では、勇気づけやチャレンジを促す態度が必要です。そのほか、体験を積極的に提供する、家族合同面接をするなどの方法もあるでしょう。
4. 「転移」をとらえる
セラピストがクライエントにとって重要な存在になると、クライエントは以下のふたつの方向に向かいます。
- 良性の転移: カウンセラーを理想化し、成長を示す。
- ネガティブな転移: 強い不安や葛藤を秘め、抵抗が生じる。
機能不全家族で育ち、PTSDのような心的トラウマを持つケースでは、転移の取り扱いに慎重さが必要です。
転移を治療的に活用するには、クライエントが対象へのイメージと現実のカウンセラーのイメージを同時に感知する健康な状態が求められます。
5. フィードバックはすべきか
フィードバックはクライエントにとって適切な承認や成長を促す効果があります。ロジャースの来談者中心療法が参考になるでしょう。クライエントの発言や態度が一致している場合に肯定的な反応を示し、一致していない場合にはその不一致を指摘してみます。
精神分析でも、セラピストがクライエントの言動に対して解釈を加え、重要な気づきを促します。ただし、過度なフィードバックはクライエントを無意識の価値観に巻き込む可能性があり、注意が必要です。
6. カウンセリングがうまくいかない原因
カウンセリングが順調に進む場合、クライエントは徐々にカウンセラーへ信頼を寄せ、安心できる環境として受け入れるようになります。
共感的な傾聴や適切な質問により、クライエントの自己理解が深まり、新たな生きかたを模索する段階に移行しましょう。
一方、カウンセリングが停滞する場合には以下のような問題が考えられます。
- 病理の問題が残っている
- クライエントの問題が解決されていない、または悪化している
- 発達障害が存在し、治療が進まない
- カウンセラーのアプローチがクライエントの問題に合っていない
- カウンセラーとクライエントの関係性にひずみがある
これらの問題に対処するためには、カウンセラーとクライエントが協力して問題を見つめ直し、適切なアプローチを模索する必要があります。例えば、グループワークや疑似体験的プログラムの活用などが有効です。
3rd-stepでは、クライエントの生きかたや自己の洞察に焦点を当て、内面の成長を促します。カウンセラーは共感的な姿勢を示し、クライエントのペースを大切にしながら、成長を支援しましょう。
沈黙の活用、無意識の問題へのアプローチ、共感的な技法、転移の取り扱い、適切なフィードバック、カウンセリングがうまくいかない原因の対処など、さまざまな方法を通じてクライエントの変容をサポートします。
カウンセリング まとめ
心理療法のカウンセリングには、以下の3つの段階があります。
1st-step: 病理へのアプローチ
- 目的: クライエントに病理や症状を教育し、理解を深める。
- 内容: 診断と病理の情報提供、症状への対応方法の指示、生活のアドバイス。クライエントの理解を促し、自立を支援する。
2nd-step: 問題解決的アプローチ
- 目的: 問題解決に焦点を当て、現状を明確にし、ストレスや問題への対応を支援する。
- 内容: 問題の明確化、エピソード的な聞き取り、コミュニケーション能力の向上。クライエントの内面的要因を理解し、適切なアプローチを取る。
3rd-step: 人生全体を扱うアプローチ
- 目的: クライエントの生きかたや自己の洞察に焦点を当て、内面の成長を促す。
- 内容: 沈黙の活用、無意識の問題へのアプローチ、生き直すための変化をもたらす技法。共感的
3ステップアプローチによる心理療法では、クライエントの状態や状況に応じた段階的な支援が重要です。カウンセラーは共感的な姿勢を保ちつつ、クライエントの成長と自立を促すために適切なアプローチを選択する、柔軟な対応が求められます。
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(参考文献)
「実践心理療法」治療に役立つ統合的・症状別アプローチ
著者:鍋田恭孝 発行:金剛出版株式会社
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